末期がん余命告知から治療再開の例も

末期がん患者を苦しめる腹水に対して患者の負担を大幅に軽減する新治療法が確立されている。

がんが末期に進んでしまうと腹水が溜まってしまい、お腹が大きく膨らんで胃腸を圧迫することで苦しく痛みを感じる。酷い場合には食事にさえ窮してしまい、呼吸も苦しくがん患者の体力だけでなく、生の質(QOL)を著しく劣化させることが問題だった。しかし、従来のがん患者の腹水は、ただ抜くだけ。腹水を抜くことで身体に必要なタンパク質も体外に出てしまい患者は弱り、また腹水が溜まり抜いて体力低下、という悪循環に嵌まってしまう。を起こす。がん治療に携わる医師の多くはがんの腹水は抜いたら死期を早めると考えており、実際にそうだった。

しかし、新しい腹水治療法は、がん患者を苦痛から解放しつつ体力も回復させる。 新しい治療法とはKM-CARTと呼ばれ、抜いた腹水から身体に必要な成分だけを分離濃縮して、再び体内に戻す治療法だ。

腹水に栄養が満ちていることは既知であったので、過去にも腹水を濾過して患者体内へ戻す治療法は開発されている。1981年に保険適用もされている「腹水ろ過濃縮再静脈注法(CART)」だ。しかし、旧来のCARTは肝硬変の腹水には有効だが、がん患者の腹水には使えなかったのだ。

肝硬変による腹水にはがん細胞が無いが、がん患者の腹水には多くの血球成分やがん細胞が含まれていることが大きな障害だった。がん細胞を濾過するとすぐにろ過膜が目詰まりすることから圧力が掛かって血球成分が潰れてしまい、炎症物質が放出されて、体内に戻す際に高熱を引き起こす原因となったのだ。

新しい治療法である「KM-CART」は、膜の構造やろ過法、目詰まりしたろ過膜の洗浄法に大幅な改良を加えた。改良で、炎症物質が激減したことで高熱リスクは減少し、濾過時間が短縮できたことで患者の負担とリスクが激減できたのだ。

適用例として紹介されているのは、末期のすい臓がん患者と末期乳がん患者、余命1週間の卵巣がん患者。 寝たきりだった60代の末期すい臓がんの男性は大量20リットルの腹水を抜いて退院し、3ヵ月後には仕事の再開にまで回復した。 また、末期乳がんの女性は8.7リットルの腹水を抜いた4日後にゴルフの18ホールを回っている。さらに、余命1週間の告知をされた70代の卵巣がんの女性は腹水治療後に抗がん剤治療を再開し、1年以上も元気に過ごした。

末期がんとして余命を告知され、腹水が溜まってお腹が肥大化して弱ってしまったがん患者でも、KM-CARTで腹水を抜いて濾過循環させることで、再び口から好物を食べ、ぐっすり眠れるようになる。患者の様相の劇的な良化は、患者だけでなく見守る家族の心情に対しても意義は非常に大きい。

そして、腹水の圧迫から解放された臓器の血流が回復し、消化排泄機能が戻ってくる。気力と体力も併せて甦れば、もう一度抗がん剤治療を開始することさえ可能性が出てくるのだ。

末期と診断されたがん患者には安易に腹水を抜くのではなく、腹水の重要性とそれを重んじる新治療法があることを再確認してもらいたい。

がんを治す、治った最新治療法、新薬